- 2000年フランス映画 6/23横浜フランス映画祭
- 監督/脚本:オリヴィエ・アサヤス
- 撮影:Eric Gautier
- 出演:エマニュエル・ベアール/イザベル・ユペール
ラスト・シーンの「ジャーン」という呼掛けの言葉に込められた切実さ、恐れ、怒りがこの映画のテーマを鮮やかに蘇らせると書けば、あまりにもロマンティック過ぎるし、アサイヤス監督は間違っていると言うだろう。
でもその呼掛けに生の世界に引き戻された仕事一筋に生きてきた男が語るのはとても優しい愛のイメージなのだ。
第一次世界大戦前後のフランス社会の大きな変化を、それはブルジョワ社会の決定的破壊と名付けてもいいのだが、物語の中に深く溶け込ませながらも、この映画は愛についての映画なのだ、そう僕は感じた。
そしてこの映画の主人公はエマニュエル・ベアール演じる一人の女性なのだ。その女性は人生において大切なものは愛であり、愛だけが大切なものであることを確信して生きている。
その女性は、女性は哀れだ、なぜなら女性は人生には愛しかないと思い込んでいて、愛が無くなれば空虚しか残らないから、と言われても動じない。
その女性は愛がそして愛のみが大切なことを「知っている」からだ。
この女性はいつも光と共に現われる。明るい陽光。その爽やかな光はまるでアサイヤス監督のその女性に対する祝福のように僕には感じられた。
この映画は音が、例えばパーティのシーンでの踊る女性たちの衣擦れの音等、とりわけ印象的だが、最終的には音は人生の虚無を伝える。様々な音の記憶の連なりは熊手で庭石を均す音に収斂し、全ては空しいと結論する。
その音をたおやかに破るのが、男が口にするとても優しい愛のイメージなのだ。柔らかな優しい陽光。そのイメージが人生を虚無から救い出す。
主人公の女性は、人生において重要なのは精一杯戦い己の限界を知ることだと言い切る男の人生観に最終的に勝利を収める。
そして勝利の中でその女性も男も救われるのだ。
2000/06/23