- 1994年フランス映画 2/25シネ・ヴィヴァン・六本木
- 監督/脚本:エリック・ロシャン
- 撮影:ピエール・ノヴィヨン
- 主演:イヴァン・アタル/サンドリーヌ・キベルラン/ナンシー・アレン
良質のスタイリッシュな娯楽映画。
でもこの映画の監督がエリック・ロシャンである必然性はまったくない。一定水準以上の技術を持った監督なら誰でも撮り得る映画だ。監督は映画の背後に完全に隠れているように見える。
映画を観ながら僕の頭にあったのはどうしてエリック・ロシャンはこの映画を撮らなければならなかったのかという疑問だ。
"Un monde sans pitie"1989 "Aux yeux du monde"1991 "Les patriotes"1994とエリック・ロシャンの長編三作を並べてみる。原題を直訳するとそれぞれ「情け容赦のない世間」「世間の目に」「愛国者たち」となる。これらの題名を眺めているとそこには一貫したテーマが流れていることに気付く。それは社会だ。
「情け容赦のない世間」でイッポが反抗するのは自分の正直な気持ちを見失わせてしまう世間のあり方に対してだった。「世間の目に」でブリュノは自分を無名の存在として押し潰そうとする世間に対して反抗した。
「愛国者たち」では二人の愛国者が登場する。ユダヤ系フランス人とユダヤ系アメリカ人。二人は祖国イスラエルのためにスパイとして働く。なぜか。それは愛国者であることによって彼らの生が日常生活のなにもかも無化してしまう時間の流れから救われるからだ。つまり彼らは愛国者であることによって生きる意味を得る。
彼らはある意味ではイッポやブリュノと対照的だ。彼らは社会に反抗することでなく、社会に忠誠を尽くすことによって生の意味を得ようとする。しかし彼らのロマンは無惨にも壊される。祖国は、社会はたんに彼らを利用するだけだ。
ユダヤ系アメリカ人がイスラエル大使館に逃げ込むシーンは印象的だ。彼はイスラエルのために働いたと主張するが無視され彼を捕縛に来たアメリカ政府に引き渡されてしまう。車に放り込まれるようにして閉じ込められた彼はガラス窓越しにイスラエルの国旗をじっと見つめる・・・。
この映画はハッピーエンドで終わる。それは祖国に忠誠を誓いながらも裏切らてしまった魂たちに対するレクイエムのように僕には思える。
もちろんこの映画からはエリック・ロシャンの僕はたんに娯楽映画を作っただけなんだという声も聞こえてくる。
もしそうなら、僕はエリック・ロシャンにグッド・バイと言うだけだ。
1997/02/25